―櫻井 まず神山監督にお伺いしたいのですが、監督は最近立て続けにインタビューを受ける機会があったと思うんですけど、そのインタビューの場で「『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(以下『攻殻S.A.C.』)』は良くできていて面白いんだけど、神山監督のテイストっていうのが入っていないんじゃないか」っていうことを二、三度言われたということを聞いて、僕は非常に意外だったし、憤慨したんですけど。
―神山 『攻殻S.A.C.』は脚本をチームという形でストーリーを構築してきたというところもあり「まとまっているれども、神山節みたいなものがないんじゃないか。もうちょっと出した方がいいんじゃないか」みたいなことは言われたんだけど。でも今作が初監督なわけだし、「神山健治とは?」っていう人からすれば対比するものがないわけだから。
―櫻井 なるほど。
―神山 櫻井が憤慨してくれた事に関しては感謝しているんだけど(笑)、今後新たな作品を作る機会があったときに「ああ、これが神山テイストなのかな」っていうものが出てればいいのでは。もしかしたらテイストが無いことがスタイルなのかもしれない。まあ言われたことに対してはそんなに気にしてないんだけど、ちょっと言われっぱなしなのもつまんないので、例えば富野監督が『ライディーン』を撮ったときに、「すごい富野節だな」と言った人がいたのかと。宮崎監督が『コナン』を撮ったときに、「コナンは本当に宮崎節ですね」って最初から言われてたのか、って言い返しておきましたけど(笑)。
―櫻井 なるほど。ある時、商品開発などを中心にやっている方に「神山監督のバッジできたよ」って電話があってですね、何の事かわからなかったんですけど、作っていた笑い男のピンバッチだったんですね。確かにいつも野球帽をかぶって「正義とはなんぞや」ということを語っている監督にも見える。それで『攻殻S.A.C.』をあんまり見ていなかった商品開発の方も瞬時にわかったんじゃないか。実はそこには神山節がにじみ出ていたのではないかと(笑)。神山監督は野球に関して思い入れがある人なんですかね。
―神山 『攻殻S.A.C.』に9という数字や野球というテイストを入れたのは、僕自身野球がすごく好きだったので。でも僕ぐらい野球がへたくそなやつはいなくて、小学校で辞めちゃったんですけど。辞めただけに傍観する立場から野球を愛していて、今回『攻殻S.A.C.』を監督するときに9という数字が事ある毎にキーワードになっています。公安9課も9だし、こじつけなんですけど9課のメンバーもタチコマを入れて8人で、もう一人いれたら9だから、スカウトしちゃうおうとか。櫻井はスタッフとして会議に参加していたからよく知っていると思うんだけど、よくアニメの制作現場を野球に例えるんです。野球だと語りやすいんですね。アニメーションっていうのは割とスタッフレベルにまで監督の意志を反映させやすいものだと思うんですよ。サッカーやラグビーの監督って準備までして、あとは選手にお任せするっていうところがありますよね。大塚さんはよくご存じだと思いますけど、舞台っていうのは役者のものじゃないですか。役者さんが舞台で演じるというのは、そういう意味ではサッカーの選手の立場に近いのかなと。アニメーションだと作画監督が4番打者で、演出家っていうのはピッチャーかなと。すごく引用しやすいので使うんですよ。まあそれは自分の野球好きが高じてなんですけど。9というものをキーワードにして、趣味的なものをいれてみたという感じですね。『攻殻S.A.C.』は黒幕の政治家や日本国内の話しだったので、野球は国技じゃないですけど日本的なものなので9としました。ちなみに『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG(以下『2nd GIG』)』の方には個別の11人という敵が出てきていて、11という数字がキーワードです。『2nd GIG』のテーマであるテロや戦争といううものは『攻殻S.A.C.』に比べるともう少し国際的になってきた。じゃあサッカーかなと(一同大爆笑)。
―櫻井 地上波のオープニングテーマも『GET9』という曲で、キーワードが含まれていますが、それも監督がオーダーを出したんですか。
―神山 僕の方ではオーダーを出さなかったんだけど、菅野(よう子)さんのほうで敏感に感じ取ってくれたんですね。
|