――― 今回この仕事を受けたポイントはお二人とも神山監督からの誘いだと伺いましたが、どこに一番魅力を感じたんですか?
―佐藤 ん〜〜、熱かったんですよ! 静かに燃えている感じ。お話を頂いてからプロダクションI.Gに会いに行ったら、ものすごい線の細そうな人が出てきて、それが監督だった(笑)。監督は「劇場版の『攻殻』と全く反対のものをくっつけて作りたい」ということを言っていて。
―菅野 その時にはもう、監督自身が『攻殻S』をどういう話にしたいとかはあったの?
―佐藤 漠然とはありました。SFじゃなくてリアルな犯罪ものとしてのプロットが。僕は毎回「これをどうやってSFにするか」というお題でやってました。監督が『カウボーイビバップ』をすごい好きで観ててくれて引っかかった回が、僕が脚本を書いたものだったらしいんです(
注6)。監督自身が「俺はSFは無い」って言っていて、でも「文学がすごい好きだ、村上春樹とサリンジャー(
注7)が大好きだ」と。
―菅野 まんまじゃないですか!
―佐藤 そう(笑)! 周りの人たちはサリンジャーとかはよく解らないと。でも僕はすごく面白いと思ったんですよ。サイバーパンクというと『ブレードランナー(
注8)』みたいなイメージじゃない。そこでサリンジャーと言い出すなんて、「面白い監督だな〜」と。
―菅野 「『攻殻』なのにサリンジャーときたか!?」って(笑)?
―佐藤 しかも監督、野球がすごい好きなんです。だからあの『笑い男マーク』が……。
―菅野 ああ! 野球帽!
―佐藤 そう。『9』って野球の構成人数で、これも『9課』でしょ? そういうことを関連性を色々挙げだして、「この人面白い人だなぁ〜」と思ってやる気になった。条件的にはマイナスでスタートしても、この監督の発想ならプラスになるだろうと感じたんです。
――― 菅野さんは?
―菅野 オレはね、指が細〜いっていう。
―佐藤 それ、ずっと言ってますね(笑)。
―菅野 だってほんっとうに指が細くて長いんだもん。それで「もしかして器用なんですか?」って訊いたら、「すごい器用なんです」って。なんかお寿司とかおいしく握りそうじゃない! わかんないけど、そういう人柄。1話の脚本を読んで、派手な演出をわざと避けてるのかと思うくらい地味だったから「(派手な演出を)わざと避けてるんですか?」って訊いたら「いや、僕には無いんです」と。「ケレン味(
注9)無いよね」って言ってもめげないし、本人にブレがないんですよね。「無いんですよごめんなさい」とあっさり。
―佐藤 (笑)
―菅野 柳のように風が吹いても倒れない感じで、すっごいなあと思って。なんか芯の強さというか、そういうものを感じる。
―佐藤 それがあんまり見えないところも素敵なんですよね。体調いつも悪いそうだけど(笑)。
―菅野 でも「俺は燃えてる!」っていうより秘めた強さみたいなものがあるから、実はスタッフの中で一番生き残るタイプかも。しぶとい感じ(笑)? そういう印象があるよね。
――― サリンジャーや文学の話が出ましたが、今回の作品には文学的な雰囲気があります。それが曲に反映されたところというのはあるんでしょうか?
―菅野 いや、引き受けるに当たって文学的なんてことは全然聞かされてなかったな。
―佐藤 逆に言わなかったのかもしれないですね。
―菅野 もしかしたらね。オレは単に監督から「自分にはコミカルとかケレン味が足りないので」って言われて、「よしっ! オレさまがいっちょやったるか!」って。これはもうギターバリバリにしようと思って勝手にやってたら「全然違う!」みたいな。
―佐藤 はははは(笑)!
―菅野 そこからは地道に歩み寄りながら。
―佐藤 それじゃあ、そんなにカチカチのオーダーはされていない?
―菅野 全く。
―佐藤 最初に相談を受けたとき「(音楽は)菅野さんにお願いしよう」って聞いたんですよ。監督が「俺は音楽のことはなんにもわかんないんだけどさ、どういう風に言ったらいいかな?」って訊かれたから「いや、わかんないって言うのが一番いいですよ」って。それで「知った振りしてもしょうがないよね」って。
―菅野 監督は喋る言葉にもの凄く責任とか重きを置くじゃないですか。曲持ってってその場で聴かせて、「この曲どう?」って言っても「ちょっと明日まで待って」って(笑)。こっちとしてはそんな大層なことじゃなく、「一言、好きか嫌いか、なんでもいいんだけど」って言っても、絶対「明日まで待ってください」って。一曲の感想を言うのに、なんて言おうか一晩中いろいろ考えたりしてるんだろうなと。すごい言葉に重きを置く人。だからセリフもすごくこだわって作ってる。
―佐藤 それはそうかもしれない。